エルヴィスの生い立ちA

「三つ子の魂、百まで」という諺がある。
エルヴィスの幼児期を考える時、この言葉を思いださずにはいられない。
生まれたその日から、子供というのはまわりの人間、環境に影響されて育っていく。
特にいつも一緒にいて、言葉をかけ、身体の具合はどうだろうか、
お腹はすいていないか、と子の顔をのぞきこんで心配する母親の存在は大きい。

母親のグラディスは一人っ子のエルヴィスをこよなく愛した。
貧困にあえぐ中、希望の星だったエルヴィスがいたからこそ、
苦しい仕事にも従事できたのだと思う。
エルヴィスが2歳になった春から秋にかけて、
グラディスは近所の棉畑で棉摘みのアルバイトをする。
夏の暑さはきっと彼女とエルヴィスにとって想像を絶する試練だったに違いない。
1日100ポンドの棉花を摘んでたった1ドル50セントのお金しか手にできない。
それでもこの過酷な仕事をせざるをえないのである。

2歳というと、歩くことにもすっかり慣れ、いろいろなものに興味を持って
大人の真似をしはじめたりする時期である。
エルヴィスは果てしなく広がる棉畑でどのように過ごしていたのだろうか。
普通だったらじっとしていない時期なので、歩きまわって母親のそばになどいない。
棉畑の中を自由に歩き回り、「エルヴィス、そっちへ行ってはダメよ。」
などど母親は注意をしなくてはいけない。
はっきり言って棉などを摘んでいられないくらい子供は手のかかる時期である。
それがグラディスは数ヶ月もこの仕事を続けている。
いかにエルヴィスがおとなしい、母親の言いつけを守る抑制のきいた子供であったかは
このことからも想像できる。
この棉畑で一緒に働く黒人やプア・ホワイトたちが歌うブルース<主に ワーク・ソング>
や棉摘みの歌が、自然とエルヴィスの耳に入ってきたにちがいない。

「抑制されてはいるけど、歌を歌う時だけはそれを解放できるのだ」
「ありのままの自分を歌に込めることができるのだ」

という無言のメッセージが込められていただろう歌に。