2Pac/2パックD〜『Changes』
 
 

1995年10月、マリオン・"シュグ"・ナイトの申し出を受け入れた2Pacは
獄中でデス・ロウ・レコードと契約し、
8ヶ月の刑務所生活から解放される。
所属していたインタースコープはデス・ロウと提携し、
今後もレコード流通に関わっていく事になった。
デス・ロウが出した条件は140万ドルの保釈金を支払う代わりに
アルバムを3枚リリースするということ。
2Pacは10月13日から2週間スタジオにこもってレコーディングを行った。

アルバムからの先行シングルとして、
出所後初の復帰作となる『California Love/カリフォルニア・ラヴ』
デス・ロウ/インタースコープから12月末にリリースされる。
これはダブルA面シングルで、
『California Love』と『How Do U Want It』を収録。

ドクター・ドレーがプロデュースした曲『California Love』は、
全米ヒット・チャートで2週連続第1位を獲得。
サンプリングされた曲は
1972年にジョー・コッカーが歌った『Woman To Woman』で、
ドクター・ドレーやトーク・ボックスを操る
ザップのロジャー・トラウトマンがフィーチャーされた。

そしてついに1996年2月13日、
ヒップホップ史上初の2枚組アルバム
「All Eyez On Me/オール・アイズ・オン・ミー」がリリースされる。
ディスク1に14曲、ディスク2に13曲、計17曲収録されている。
参加アーティストは元「サグ・ライフ」のメンバーや「アウトローズ」、
デス・ロウのドクター・ドレーやスヌープ・ドッグ、
ネイト・ドッグ、ザ・ドッグ・パウンドやジョージ・クリントン他多数で
プロデューサーもジョニー・ジェイやドクター・ドレー、ダズなど14名が関わり、
総勢100名近くの名前がこのアルバムにクレジットされた。

「All Eyez On Me」は、社会問題や政治に言及した
ファースト・アルバム「2Pacalypse Now」や
セカンド・アルバム「Strictly 4My N.I.G.G.A.Z.」とは違い、
サグ・ライフ(ギャングスタ的な生き方)が中心に描かれている。

「All Eyez On Me」は2か月で500万枚以上、
2年間で900万枚以上を売り上げて
1990年代を代表する優れたラップ・アルバムの一つになったが、
2Pacにとって生前リリースされた最後のアルバムとなってしまった。

1996年5月7日、アルバムからのセカンド・シングルとして
『2 of Amerikaz Most Wanted』がリリースされ、
この曲で2Pacはロングビーチ出身のMCスヌープ・ドッグと共演。
スヌープは冷静沈着、2Pacは血気盛んなタイプ。
真逆の性格を持った二人がコラボした。

1996年7月4日には3枚目のシングルとして
『How Do U Want It 』がリリースされる。
R&Bの兄弟デュオ、K-Ci&JoJoと共演し、再び全米1位に輝いた。
このシングルのB面は
『California Love』、『2 of Amerikaz Most Wanted』と『Hit 'Em Up』だった。

『Hit 'Em Up』はニューヨーク出身のMC、
クリストファー"ノトーリアス・B.I.G."・ウォレス(愛称はビギー・スモールズ)が
2Pac銃撃事件直後に出した『Who Shot Ya』のアンサー・ソングで、
ビギーを侮辱したdis song/ディス・ソング(disrespect song)となっている。
この曲で2Pacは自分のグループ「アウトローズ」と共演。

2Pacとビギーは元々親しい友人だったが、
1994年マンハッタンにあるビルのロビーで起きた
2Pac銃撃事件によって関係が悪化する。
ロビーで撃たれて上の階に逃れた時、
そこにいたビギーや彼の所属レーベル「バッド・ボーイ」の関係者が
誰も彼をを助けようとしなかったからだ。
そのため2Pacは彼らに疑念を抱くようになり、
バッドー・ボーイのCEOショーン・"パフィ"・コムズやビギー、
そして当日行動を共にしていた親友ストレッチが
銃撃を企てたのではないかと考えるようになる。
ストレッチは銃撃事件のちょうど1年後、1995年11月30日に
ニューヨークのクイーンズ区で遺体となって発見された。

1993年にパフィが東海岸のニューヨークで
バッド・ボーイ・レコードを立ち上げ、
ビギーを発掘して瞬く間に成功を収めた頃、
ヒップホップ界は西海岸のロサンゼルスに拠点を置く
シュグ・ナイトのデス・ロウ・レコードが牛耳っていた。
そのためシュグはバッド・ボーイの躍進を妬んで
公の場でパフィを野次るようになる。
そんな折、バッドボーイの本拠地ニューヨークで2Pac銃撃事件が起きたのだ。

この事件によってビギーと2Pacの友情は壊れ、
2Pacが1995年10月にデス・ロウと契約を結んで
『Hit 'Em Up』』をリリースした事により
東西ヒップホップ界の対立は激化する。
1996年3月、「ソウル・トレイン・ミュージック・アワード」で
ビギーの『One More Chance』が受賞するが、

バック・ステージでは両者が一触即発の事態に陥った。

そしてとうとう運命の日が訪れる。
1996年9月7日の夜、
2Pacはラスヴェガスで行われたマイク・タイソンの試合を
シュグ・ナイトの一行と観戦した後「クラブ662」に行く為に
シュグが運転する黒のBMWに乗り込んだ。

ここに2Pacの生前最後の写真がある。
この写真は2Pacの乗った車が赤信号で止まった時、
横に止まった車から写真家によって撮影されたものだ。
それが午後10時55分。

午後11時5分頃、
ナンバープレートがない上にカーステレオを大音量で聴いていた為
警察に車を止められる。
プレートがトランクから見つかったので注意を受けただけで済んだ。
午後11時10分、
赤信号で止まった時、サンルーフから顔を出していた2Pacは
隣りの車にいた女性二人と言葉を交わし「クラブ662」に来るよう誘った。

午後11時15分頃、
横付けされた白のキャデラックの窓が下げられ、
何者かが2Pacに向けて拳銃を10発以上発砲する。
うち4発が後部座席に逃れようとした2Pacの胸と腰、右手、太ももに命中。
運転席にいたシュグ・ナイトは破片で頭にかすり傷を負っただけ。
2Pacはすぐに病院へ運ばれて緊急手術を受けたが、
右肺に受けた銃弾が致命傷となり、
9月13日午後4時3分に息を引き取る。享年25歳。

2Pacの乗った車の後ろには関係車両が10台程連なっていて
目撃者がいたにもかかわらず
事件について詳細を語る者は一人もいなかった。
今だに犯人は捕まっていない。

半年後、今度はビギーが悲劇に見舞われる。
1997年3月25日にリリースされるセカンド・アルバム
「Life After Death」のプロモーションの為にビギーは2月からロスを訪れていた。
3月8日にプレゼンターとして「ソウル・トレイン・ミュージック・アワード」に出席し
その後ヴァイブ誌とクエスト・レコードが主催した二次会のパーティに参加。

3月9日0時30分頃、
ビギーは会場のあったピーターソン自動車博物館前でSUV車に乗ったが、
付近の道路はイベントに参加した人でごった返しており、
0時45分頃、会場前から45メートル進んだところで赤信号になり
車はストップする。
その時シボレー・インパラが横付けされ
運転席にいた青いスーツの黒人男性が窓を下してビギーの車に発砲。
ビギーは4発被弾し、病院へ運ばれたが1時15分に死亡が確認された。
享年24歳。
犯人の似顔絵が公開されたが逮捕に至っていない。

2Pacとビギー。
二人の天才ラッパーは人気絶頂のさなか何者かによって殺害されてしまった。
東西ヒップホップ抗争にギャングが絡んで
その犠牲になってしまったのだろうか?
なぜ目撃者が多数いるのに犯人逮捕につながる有力な情報が出てこないのか。
捜査が打ち切られてしまったのはなぜなのか。

2002年に公開されたドキュメンタリー映画
「BIGGIE&TUPAC」のDVDを観た時、その謎が解けた。
この映画を手がけたのはイギリス出身のニック・ブルームフィールド監督で、
集音マイクを片手に自らインタビュアーとして出演し、
二人の殺害の真相を探る為、事件に関わった元刑事や
受刑者にまで粘り強く取材交渉を行って証言を得ている。

ニックは事件の真相を知っていると思われる人物に対して
歯に衣着せぬ質問をして真実を暴こうとした。
ビギーと2Pacの死には裏社会が関わっている為
死の真相を探る事は自分の身を危険にさらすようなものだ。
それなのにニックは飽くなき追及ぶりで取材を敢行。
何と刑務所にアポなしで出向き、事件の黒幕と噂された
シュグ・ナイトにまでマイクを向けたのである。
彼の危険を顧みないジャーナリスト魂に脱帽した。

取材に協力したのは2Pacの実父やビギーの母親、
親族、友人、ボディガードや事件に携わった元刑事達である。
ビギーのお母さんであるヴォレッタは聡明で暖かく
息子への愛情にあふれた素晴らしい女性だった。

ビギー殺害事件の捜査を真面目に行おうとした
エルヴィス好きの元ロス市警の刑事が同僚から酷い嫌がらせを受け、
退職にまで追い込まれたという証言には驚いた。
捜査が進展しなかった理由が見えてくる。
二人は「カネと権力」の犠牲になってしまった・・・。
そう思えてならない。

2Pacの言葉には人の心を動かす力があった。
鋭い感性と類まれな才能、そしてカリスマ性が悪の餌食となり、
彼に早すぎる死をもたらしてしまったのかもしれない。
同胞を愛し弱者に目を向け、社会を変えたいと思っていた2Pac。
彼は『Changes/チェンジズ』で複雑な胸中を吐露している。

この曲のテーマは深遠だ。
彼は3つの「チェンジ」について語った。
「変わって欲しくないけど変わってしまうもの」
「変えたいけど絶対に変わらないもの」
「努力や意志の力でで変えていけるもの」

2Pacにとってそれらが何を意味するのか
歌詞を読めば明らかだ。
3つの「チェンジ」は人それぞれ違うはず。
それが自分にとって何なのかを考える時、
その人を取り巻く環境や人生が見えてくる。

この曲はアルバム「Gratest Hits/グレイテスト・ヒッツ」
からの先行シングルとして1998年10月13日にリリースされた。
オリジナルは1992年にデオン・エヴァンスのプロデュースによって
レコーディングされたもの。
リミックスは97〜98年頃行われた。
サンプルはブルース・ホーンズビーが歌った
1986年のヒット曲『The Way It Is 』である。
2Pacの死後リリースされたにもかかわらず、
各国でシングルがトップ10入りし彼の代表曲の一つとなった。

2Pacが一番望んでいだ事は、
この世から人種差別や薬物依存がなくなり、
全ての人間に平等な権利と機会が与えられた
平和で住みよい社会の実現だったに違いない。
どんなに時が流れても彼の言葉が色褪せる事はない。
彼が発したメッセージは今でも人々の心の中で生きている。



『Changes』  Written by Tupac Shakur, Deon Evance, Bruce Hornsby



Come on, come on
I see no changes, wake up in the morning and I ask myself
"Is life worth living, should I blast myself?"
I'm tired of bein' poor and even worse I'm black
My stomach hurts, so I'm lookin' for a purse to snatch

何も変わってやしない 朝起きて自分に問いかける
"生きていく価値はあるのか 死んだほうがマシか"
貧乏にはうんざり おまけにオレはブラックだ
胃が空っぽでキリキリする 財布をひったくらないと

Cops give a damn about a negro
Pull the trigger, kill a nigga, he's a hero
Give the crack to the kids who the hell cares
One less hungry mouth on the welfare

警察は黒人なんておかまいなし
引き金引いて 黒人を殺せば ヒーローだ
子どもにクラックを渡しても 誰も気にしない
福祉に頼る腹を空かせた子どもが一人減るだけさ

First ship 'em dope and let 'em deal the brothers
Give 'em guns, step back, watch 'em kill each other
"It's time to fight back" that's what Huey said
Two shots in the dark, now Huey's dead

まずはヤクを調達し ブラザー同志で売買させる 
次に銃を与えて 殺し合うのを傍で見る
"今こそ反撃の時"とヒューイが言ってたな  ※
闇の中で二発の銃弾を浴びてヒューイは死んだ

I got love for my brother but we can never go nowhere
Unless we share with each other
We gotta start makin' changes
Learn to see me as a brother instead of two distant strangers

オレはブラザーを愛している
でもお互い愛を分かち合わないかぎり
オレたちに未来はない
自分たちで変えていかないといけないんだよ
オレを他人ではなく兄弟の一人と思って接してくれ

And that's how it's supposed to be
How can the devil take a brother, if he's close to me?
I'd love to go back to when we played as kids
But things changed, that's the way it is 

これこそがオレたちのあるべき姿なんだ
オレたちが結束すれば 
悪魔がブラザーをだますなんてできないだろう?
無邪気に遊んでた子どもの頃に戻りたい
でも何かが変わってしまった それが現実さ


<Chorus: x 2>

Come on, come on, that's just the way it is
Things will never be the same, that's just the way it is
Aww, yeah

それが現実なんだ
物事は絶えず移り変わる
それが現実なんだ 


I see no changes, all I see is racist faces
Misplaced hate makes disgrace to races
We under, I wonder what it takes to make this
One better place, let's erase the wasted

何も変わってやしない 
目にするのは人種差別主義者の顔ばかり
歪んだ憎しみがオレたちのプライドを傷つける
もっとマシな生活を送るにはどうすればいいんだ
人生をムダにするのはやめようぜ

Take the evil out the people they'll be acting right
'Cause both black and white are smokin' crack tonight
And only time we chill is when we kill each other
It takes skill to be real, time to heal each other

邪悪なものを取り除くんだ 
そうすればみんなまっとうに生きられる
黒人だけじゃない白人もクラックをやってるからな
打ち解けるのは殺し合ってる時だけ
誠実に向き合うにはスキルがいるし
互いを思いやるまで時間がかかる

And although it seems heaven sent
We ain't ready, to see a black President
It ain't a secret don't conceal the fact
The penitentiary's packed, and it's filled with blacks

チャンス到来らしいが
黒人大統領の誕生はまだ無理だ
秘密なんかじゃない 真実を隠すべきじゃない
刑務所はギュウギュウ詰めで どこも黒人でいっぱいさ 

But some things will never change
Try to show another way but you stayin' in the dope game
Now tell me, what's a mother to do?
Bein' real don't appeal to the brother in you

でも絶対に変わらないものがある
別の生き方を示しているのに
おまえはヤクの世界から足を洗えない
教えてくれよ いったい母親に何ができるんだ?
自分らしく振る舞え 黒人であることをアピールするな

You gotta operate the easy way
" I made a G today", but you made it in a sleazy way
Sellin' crack to the kid, " I gotta get paid"
Well hey, well, that's the way it is

おまえは楽なやり方でやっていくのか
"今日は1000ドル稼いだぜ" 
でもそれは汚い方法で稼いだ金だ
クラックを子どもに売りながら言うんだろ
"金が必要なんだ"
ああ これが現実さ


<Chorus: x 2>

Come on, come on, that's just the way it is
Things will never be the same, that's just the way it is
Aww, yeah

これが現実なんだ
物事は移り変わっていく
これが現実なんだ


<Talking>

We gotta make a change
It's time for us as a people to start makin' some changes
Let's change the way we eat, let's change the way we live
And let's change the way we treat each other
You see, the old way wasn't working so it's on us to do
What we gotta do, to survive

オレたちは変わらないといけない
何かを変える時がやってきたのさ
食生活を変えていこう 生き方を変えていこう
そしてお互い接し方を変えていこう
今までのやり方ではうまくいかなかっただろう
だから生き延びる為にやるべき事をオレたちがやっていくんだ


And still I see no changes, can't a brother get a little peace?
There's war in the streets and war in the Middle East
Instead of war on poverty, they got a war on drugs
So the police can bother me

まだ何も変わってやしない 
黒人が安らぎを得ることはできないのか?
ストリートでは抗争 中東では戦争 
貧困撲滅運動はやらないで麻薬戦争が始まった
だから警察はオレを付け回す

And I ain't never did a crime, I ain't have to do
But now, I'm back with the facts givin' 'em back to you
Don't let 'em jack you up, back you up
Crack you up and pimps smack you up

オレは犯罪に手を染めたことがない そんな必要もない
でも今オレはここにいる 真実を伝えるために
やつらに傷めつけられるな 
やつらに借りを作るな やつらの笑いものになるな
やつらから屈辱を受けるな

You gotta learn to hold ya own
They get jealous when they see ya, with ya mobile phone
But tell the cops, they can't touch this
I don't trust this, when they try to rush I bust this

自分で自分を守る術を身につけろ
おまえが携帯を持っているのを見たらやつらは妬むだろうな
でも警察にこう言ってやれ おまえには無理だ
オレはこいつを信用しているわけではない 
あいつらが襲ってきたらこいつを撃つ

That's the sound of my tool, you say it ain't cool?
My mama didn't raise no fool
And as long as I stay black, I gotta stay strapped
And I never get to lay back

これはオレの銃の音 それは良くないって?
母親はオレをバカに育てなかった
ブラックでいるかぎり武装しないといけないし
横になってくつろぐなんてできやしない

'Cause I always got to worry 'bout the pay backs
Some buck that I roughed up way back
Comin' back after all these years
Rat-a-tat, tat, tat, tat, that's the way it is

オレはいつも復讐を恐れてるからな
昔傷めつけた奴らが仕返しにやってきて
銃をぶっ放す ラタタタタ それが現実さ


<Chorus: x 2>

That's just the way it is
Things will never be the same, that's just the way it is
Aww, yeah

それが現実なんだ
物事は移り変わっていく
それが現実なんだ


Some things will never change

決して変わらないものがある


訳:Kaori


※ヒューイ・ニュートン:公民権運動の指導者。
1966年にボビー・シールとブラック・パンサー党を結成する。


<2015・5・1>










アルバム「オール・アイズ・オン・ミー」



















































2Pacとシュグ・ナイト

























































ドキュメンタリー映画「ビギー&トゥパック」























アルバム「グレイティスト・ヒッツ」