2Pac/2パック@〜『Dear Mama/ディア・ママ』


2Pac/2パック(トゥパック)という名の
ギャングスタ・ラップのMC(ラッパー)を知ったのは今から6年前である。
ある日レンタル・ショップに行って洋楽コーナーに立ち寄ると、
そこにアーティストの写真が何枚か飾られており、
そのうちの一枚に私は釘づけになった。
目を閉じて合掌するその姿は『禅』に通じる静寂さに包まれながらも
観るものを惹き付けてやまない存在感を漂わせていたからだ。

写真の下には「2Pacが25歳で殺害されてから10年」と書いてある。

「2Pac・・・? 25歳?
 どうして殺されてしまったの?」

これが私と2Pacの出会いである。

その当時の私はまだまだヒップホップに抵抗があり、
ドラッグや女性軽視、犯罪、暴力などをテーマにした
ギャングスタ・ラップはもってのほかだと思っていたので、
その場で2PacのCDを借りることはなかったが、
心を無にして合掌している姿がなぜか脳裏にこびりついて離れなかった。
そのうち、2Pacがどんな人生を歩んだのか知りたいと思うようになり、
彼のラップを聴くより先に
伝記や詩集「コンクリートに咲いたバラ」を買って読んだ。

それからしばらくして、恐る恐る曲にも耳を傾けるようになり、
ドキュメンタリーDVDもいくつか観て、
ようやく2Pacのことが理解できるようになったのだ。
なぜ殺されてしまったのかという理由も含めて。

2Pacの上半身には20箇所以上にも及ぶ刺青(タトゥー)が施されている。
背中には大きな十字架、上腹部には「THUG LIFE/サグ・ライフ」の文字、
左上腕部にはブラックパンサーの顔、
その下には燃える十字架の上に描かれたキリストの顔、
肘から手首にかけては「OUTLAW/アウトロー」の文字など・・・。
人を外見だけで判断するならば、
彼はストリート・ギャングそのものである。
しかし、それは商業的に作リあげられたキャラクターであって、
本当の彼は純粋で繊細な心を持った詩人であり、
貧困や差別といった社会問題と真摯に向き合った戦士だったのである。
ではなぜタトゥーを身にまとって
ギャングのような振る舞いをしなければならなかったのか・・・?

2Pacが17歳の時に受けた貴重なインタビュー映像がある。
きゃしゃな身体にタンクトップを着て二の腕をあらわにしているが、
タトゥーはどこにも見当たらない。
将来に夢を抱き、生い立ちや母親との関係、社会問題について
目をキラキラ輝かせながら意気揚々と自分の意見を語っていた。
これが2Pacの原点だ。

2Pacのリリック(歌詞)は確かに単刀直入で過激なものもあるが、
ブラックパンサー党の幹部だった母親の影響で
少年の頃から洞察力があって問題意識も強く、
ホームレスやドラッグ、少女の売春、警官による理不尽な暴行、
ギャング抗争による若者の死など、ストリートで日常茶飯事起こっている
社会問題に対して「これでいいのか」とメスを入れるような内容が多い。

そして何よりも2Pacのリリックには魂が宿っている。
苦悩や悲哀、せつなさも込められているから、
同じような経験を持つ人の心にスッと入り込んでくるのだ。
『Life Goes On/ライフ・ゴーズ・オン』や
『Dear Mama/ディア・ママ』のような心に響く詩は2Pacにしか書けないだろう。

『Life Goes On』は、2Pacの大ヒット・アルバム
「All Eyez On Me/オール・アイズ・オン・ミー」(1996年)に収録されている。
このアルバムはデス・ロウ・レコードに移籍後、
初めて制作されたアルバムであり、生前リリースされた最後のアルバムでもある。
ヒップホップ史上初の2枚組となっており、
リリースされるやいなや、1週間で57万枚近く売上げ、
全米チャートで一位を獲得した。
これまでのアルバムとは違い、Gファンク色が強い。

Gファンクとは、ギャングスタ・ファンクとも言い、
1980年代後半から1990年代初頭にかけて、
西海岸のギャングスタ・ラップで生まれたヒップホップのサブ・ジャンルのことだ。
ヒップホップの基本であるサンプリング
(既にある曲を一部抜粋し、それにラップをのせる)に加え、
シンセサイザーによるメロウな旋律とゆったりとしたグルーヴ、
太く重いベース・ラインと女性コーラスの多用が特徴である。
MCのドクター・ドレーはGファンクのパイオニア的存在で、
デス・ロウのサウンド・プロデューサーの一人だった。

このアルバムの中に収録されている
『How Do U Want It/ハウ・ドゥ・ユー・ウォント・イット』と
『California Love/カリフォルニア・ラヴ』はシングル・カットされており、
それぞれ全米チャートで一位に輝いた。

「オール・アイズ・オン・ミー」に収められている
上記の3曲に関して簡単に紹介する。

『Life Goes On/ライフ・ゴーズ・オン』
 ストリートの犠牲になった友人を追悼しつつ、
 自分の死期も近づいていることを察しながら
 「それでもこの悲しみに満ちた人生を生きていかなくちゃいけない」と
 達観した境地でラップしている。
 
 地獄を生きる2Pacの野太い声と
 バック・コーラスの柔らかい女性の声が対照的で、
 まるで天国からマリアさまが慈悲深く呼びかけているようだ。
 2Pacの魂が伝わってくる珠玉の作品。
 前作「Me Against The World/ミー・アゲンスト・ザ・ワールド」
 から2Pacとコラボしてきた
 ジョニー・”ジェイ”・ジャクソンがプロデュースしている。

『How Do U Want It/ハウ・ドゥー・ユー・ウォント・イット』
 R&Bの兄弟デュオ、”K-Ci&JoJo/ケーシー&ジョジョ”が
 フィーチャーされている曲。
 シンプルだがヘヴィなベース・ラインの繰り返しがクールでカッコいい。
 プロデューサーは同じくジョニー・ジェイ。
  
 「君はどんなふうに愛されたいの? どんなふうに感じたいの?」という
 ケーシーとジョジョの歌で始まり、2Pacのラップへ。
 お目当ての女性にラヴ・コールを送っているうちに、
 いつのまにかギャングスタ・ラップを批判する
 公民権活動家デロリス・タッカーを名指しで非難し始め、
 自らの生い立ちを振り返るうちに世間に対して怒りが込み上げてきて、 
 最後は自分と同じ怒りを持つ人々に対して
 「オレに何をしてほしいか言ってくれ」と問いかける。
 
 1996年7月4日、ハリウッドにあるハウス・オブ・ブルースで行われた
 2Pac最後のライヴ・コンサートでケーシーやジョジョたちと一緒に
 この曲をパフォーマンスしている。
 
『California Love/カリフォルニア・ラヴ』(Original)

 ドクター・ドレーとロジャー・トラウトマンをフィーチャーしたカリフォルニア賛歌。
 2Pacの出所後、初の復帰作として1995年12月にシングル盤がリリースされ、
 全米チャートで2週連続1位をキープ。

 トーク・ボックス(歌っているように聞こえる楽器)を広めた
 ロジャー・トラウトマンのプレイからドクター・ドレーのラップへ。
 ドレーは、遊び人にとってのパラダイスであるカリフォルニアを讃えながら、
 この業界で10年もトップにいる自分を誇らしげに自慢する。
 ドレーのリリックは露骨すぎてうんざりすることが多いが、
 フロウ(歌いまわし)は後ノリでグルーヴがあり、親分の風格が漂っている。
 「踊りまくれ!踊りまくれ!」というコーラスのあと、
 2Pacのラップが始まる。
 刑務所から保釈されてカリフォルニアに戻ってきたが
 やっぱりここは最高だぜと歓喜する内容。

 ジョー・コッカーの『Woman to Woman』をサンプリングしている。
 オリジナル・バージョンとリミックス・バージョンがあり、
 アルバム「オール・アイズ・オン・ミー」には
 リミックス・バージョンが収録されている。
 私としては、ヒップホップとブリティッシュ・ロックを融合したような
 オリジナル・バージョンが好きである。

これらは2Pacの代表曲であり、私にとってもお気に入りの曲であるが、
「どの曲が一番心に染み入るか?」と聞かれたら
迷わず『Dear Mama/ディア・ママ』と答えるだろう。
この曲は母親のアフェニ・シャクールに宛てたもので、
ジョー・サンプルの『In All My Wildest Dreams』と
スピナーズの『Sadie』をサンプリングしている。

2Pacが服役する前にレコーディングされ、
刑務所に収監された直後に(1995年2月21日)、シングル盤としてリリースされた。
ホット・ラップ・シングル部門で5週連続1位をキープし
全米チャートでも9位にランクインする。
プロデューサーはトニー・ピッツァロ。
アルバム「Me Against The World/ミー・アゲンスト・ザ・ワールド」(1995年)
に収録されている。

アフェニがクラック中毒になり、
生き地獄のような生活を送っていた時もあったのに、
母親を見捨てず、愛情のこもった言葉で
母を讃えているところに2Pacの優しさを感じる。
母親の全てを受け入れ、愛しているからこそ
感謝の言葉が自然と心の底から出てくるのだろう。
自らの死期が近づいていることを悟り、
必死になって自分の気持ちを伝えようとする2Pacの言葉に
深く心を揺り動かされた。



『Dear Mama/ディア・ママ』

                       Written by T.Shakur/T. Pizarro
You are appreciated

母さん 感謝してるよ

[Verse One: 2Pac]

When I was young me and my mama had beef
Seventeen years old kicked out on the streets
Though back at the time, I never thought I'd see her face
Ain't a woman alive that could take my mama's place
Suspended from school; and scared to go home, I was a fool
with the big boys, breakin all the rules

子どもの頃から母さんとは言い争いが絶えなかったな
17歳でストリートに放り出され
あの頃は二度と母さんに会うもんかと思ってた
でも母さんの代わりになる女なんていなかったんだ
停学処分になって 家に帰るのがこわかった
年上のヤツらと散々悪いことをして オレはバカだったよ

I shed tears with my baby sister
Over the years we was poorer than the other little kids
And even though we had different daddy's, the same drama
When things went wrong we'd blame mama
I reminice on the stress I caused,
it was hell 
Huggin on my mama from a jail cell
And who'd think in elementary?
Heeey! I see the penitentiary, one day

妹と一緒によく涙を流したな
何年もの間 オレたち二人は まわりの誰よりも貧しかった
オレと妹は父親が違ってたけど 
思い通りにならないと 二人そろって母さんのせいにしてたな
オレのせいで母さんを苦しめてしまったね
あれは最悪だった
オリの中にいた時 母さんに抱きしめてもらってる自分をよく想像したもんだ
小学生の頃 まさかオレが将来刑務所行きになるなんて
考えもしなかったよ

And runnin from the police, that's right
Mama catch me, put a whoopin to my backside
And even as a crack fiend, mama
You always was a black queen, mama
I finally understand
for a woman it ain't easy tryin to raise a man
You always was committed
A poor single mother on welfare, tell me how ya did it
There's no way I can pay you back
But the plan is to show you that I understand
You are appreciated

いつだったか 警察に追われて逃げていたら・・・そうだ
母さんはスゴイ剣幕でオレを捕まえにきて 尻を叩いたっけ
クラック中毒だったのに
母さんはいつだってブラックの女王さまだ
ようやくわかったよ
女手ひとつで 一人前の男に育てあげるのは大変なことだって 
母さんはいつだって必死だった
生活保護を受けてる貧しい未婚の母なのに どうしてそこまで頑張れるの?
どんなに恩返しをしてもしきれないな
だけどこれだけは伝えたいんだ
感謝してるよ 母さん

[Chorus: Reggie Green & "Sweet Franklin" w/ 2Pac]

Lady...
Don't cha know we love ya? Sweet lady
Dear mama
Place no one above ya, sweet lady
You are appreciated
Don't cha know we love ya?  

レディ・・・
オレたち二人は母さんのことが大好きさ 優しいレディ
ねえ 母さん
誰もあなたの代わりになんてなれない
母さん ありがとう
オレたちは心から母さんのことを愛しているんだ

[second and third chorus, "And dear mama" instead of "Dear mama"]

[Verse Two: 2Pac]

Now ain't nobody tell us it was fair
No love from my daddy cause the coward wasn't there
He passed away and I didn't cry, cause my anger
wouldn't let me feel for a stranger
They say I'm wrong and I'm heartless, but all along
I was lookin for a father he was gone

それでいいんだと言ってくれる人はいなかったけど
家庭を捨てた卑怯な父親にオレは愛情のかけらも持ってない
オヤジが亡くなったと聞いても
怒りの方が強くて涙なんか出なかった
オレにとっては父親というよりも見知らぬ人って感じなんだ
みんなは間違ってるとか冷たいって言ってるけど
ずっとオヤジを探していたのに 
オレのことなんかお構いなしに死んじゃったのさ 

I hung around with the Thugs, and even though they sold drugs
They showed a young brother love
I moved out and started really hangin
I needed money of my own so I started slangin
I ain't guilty cause, even though I sell rocks
It feels good puttin money in your mailbox
I love payin rent when the rent's due
I hope ya got the diamond necklace that I sent to you
Cause when I was low you was there for me
And never left me alone because you cared for me

オレは悪いヤツらとつるむようになり
ドラッグを売りさばくような連中だったけど
若い下っ端のブラザーを可愛がったりしてたよ
オレは家を出て ヤツらと一緒に行動し
自分の稼ぎが必要になった  それでヤクの売人になったんだ
クラックを売っても罪悪感はないね
郵便受けにお金が入っていたら嬉しいだろ
家賃を払わなくちゃいけないなら喜んで払うよ
母さんにダイヤのネックレスを買ってあげたいな
母さんはオレが落ち込んでた時 ずっとそばにいてくれたからね
オレのことを本気で心配してたから
決してオレのそばを離れなかった

And I could see you comin home after work late
You're in the kitchen tryin to fix us a hot plate
Ya just workin with the scraps you was given
And mama made miracles every Thanksgivin
But now the road got rough, you're alone
You're tryin to raise two bad kids on your own
And there's no way I can pay you back
But my plan is to show you that I understand
You are appreciated

ようやく仕事を終えて遅く帰宅したのに
母さんはキッチンに立ってあったかい料理を作ってくれたね
家の中は誰かに恵んでもらったガラクタばかりだったけど
それでも母さんは感謝祭の時はいつも
ビックリするほどおいしいご馳走を作ってくれた
それなのに今 母さんを独りぼっちにして辛い目に合わせてる
出来の悪い二人の子どもを一生懸命育ててきたのに
どんなに恩返しをしてもしきれないよ
だけどこれだけは伝えたいんだ
母さん 感謝してるよ

[Chorus]

[Verse Three: 2Pac]

Pour out some liquor and I reminsce, cause through the drama
I can always depend on my mama
And when it seems that I'm hopeless
You say the words that can get me back in focus
When I was sick as a little kid
To keep me happy there's no limit to the things you did
And all my childhood memories
Are full of all the sweet things you did for me
And even though I act craaazy
I gotta thank the Lord that you made me

酒を飲むとよく思い出すんだ
大変な時はいつも母さんを頼ってたから
どうしようもなく落ち込んでた時も
母さんはオレを勇気づけるような言葉をかけてくれたね
幼い頃病気になった時も 元気になるよう尽くしてくれた
母さんは掛け値のない愛情を注いでくれたんだ
子どもの頃の思い出には 母さんの優しい愛情がたくさんつまってる
オレはバカなことばかりしてきたけど
母さんがオレを産んでくれたことを神様に感謝しなくちゃいけないな

There are no words that can express how I feel
You never kept a secret, always stayed real
And I appreciate, how you raised me
And all the extra love that you gave me
I wish I could take the pain away
If you can make it through the night there's a brighter day
Everything will be alright if ya hold on
It's a struggle everyday, gotta roll on
And there's no way I can pay you back
But my plan is to show you that I understand
You are appreciated

どんな言葉を並べてもこの気持ちを言い表すことができないよ
母さんは決して隠し事をせず いつも正直に生きてきた
そんな母さんに育ててもらって感謝してるよ
あふれんばかりの愛情を注いでくれてありがとう
母さんの苦しみを取り除くことができたらどんなにいいだろう
夜が明ければきっと痛みもやわらぐよ
頑張っていればきっと全てがうまくいく
もがき苦しむばかりの毎日だけど それでも生きていかなくちゃ
母さんには恩返しをしてもしきれないな
だけどこれだけは伝えたいんだ
母さん 感謝してるよ

                                   訳:Kaori

<2012.10.3>












































































17歳の時の2Pac

























































































































母親のアフェニと共に