コーネル・デュプリー@〜職人気質の名ギタリスト


昨年の夏、サークルのイベントに参加した時
ギタリストのRさんから
コーネル・デュプリーが亡くなったことを知らされ
少なからずショックを受けた。
 
亡くなる前年の2010年夏、
私はコーネル・デュプリーが来日することを
ビルボード・ライヴ東京からのダイレクトメールで知り、すぐに予約を入れたが
前日になって都合がつかなくなりあえなくキャンセル。
その時は「まだ60代だから大丈夫。来年もきっと来てくれる」
と暢気に構えていたのだが、翌年の2011年5月8日、
デュプリーは家族に見守られながら天国へ旅立ってしまった。
享年68歳。
肺気腫を患っていて、
数年前から酸素ボンベを携帯しながらライヴを行っていたようだ。
お気に入りのギタリストだったので、残念でならない。
また一人、唯一無二の才能を持ったアーティストが
天に召されてしまい、
ため息の連続だ。
 
デュプリーの一周忌が近づいていることもあって
彼の年譜をいろいろ調べていたら、
私が初めてデュプリーのギターに接したのは
1980年の大ヒット曲『Guilty/ギルティ』だったということが判明した。
この曲はバーブラ・ストライサンドとバリー・ギブ(ビージーズ)がデュエットし、
グラミー賞まで獲得している。
デュプリーは「Mr.2500」
(2004年の時点でレコード・セッション回数が2500を越えた為)
という異名を持つだけあり、数々のセッションをこなしていたのだ。
叔母がビージーズのファンだったこともあり、
リアルタイムで『ギルティ』を聴いていたが、
当時の私は二人の歌声しか耳に入らなかった。
まさかコーネル・デュプリーがバックで弾いていたなんて・・・。
 
デュプリーの顔と名前、演奏が一致したのはそれから25年後で、
ダニー・ハサウェイのアルバム「Live」(1972年)を聴いた時だ。
音数は少ないが、フレーズに渋みや味わいがあり、
ここぞというタイミングで入れてくるオブリガート(短いフレーズ)は絶品である。
間の取り方も絶妙で、カッティングはグルーヴの極致。
「このギタリストは誰?」と胸がときめくまでわずか数十秒だった。
 
コーネル・デュプリーのギターがいかに個性的で素晴らしいか・・・。
以前、ギタリストのTさんとデュプリーについてお話したことがあり、
以下のようなコメントを送ってくださったので掲載させていただく。
 
 「デュプリーのギターですが、ソロの音使いにも特徴がありますが、
  バックでのカッティングとオブリガートの組み合わせ(タッチも含めて)が、
  なんといってもONE AND ONLYですね。
  リズムも跳ねています。バーナード・パーディーと同じくらい跳ねています。
  これは、本来、歩き方自体が跳ねてるネイティブブラックレベルでないと
  難しいでしょうねー」
 
Tさんがおっしゃった「リズムも跳ねている」という言い回し。
これはブラック・ミュージックを聴いていないと
なかなか実感できない感覚かもしれない。
ミュージシャンにとってリズム感があるのは当たり前。
「跳ねている」というのはプラスアルファの部分を指している。
アフリカ系の血が入っていないと到達するのが難しいレベルなので、
私にとっては、どんなに夢見ても永遠にたどり着くことができない
憧れの境地だ。
 
名盤「Live」を聴いてからコーネル・デュプリーに関心を持つようになり、
その頃の映像がどうしても観たくなってYouTubeで探したら、
キング・カーティスのバック・バンド
”The Kingpins/キングピンズ”にいた頃の映像が見つかった。
それはメンバー紹介の定番曲
演奏している映像(1970年)で、
こんなレア映像を所持し、アップしてくれた投稿者に感謝したい。
ギターがフューチャーされてる時間は30秒にも満たないが、
デュプリーの優れた才能がギュッと詰まっていた。
 
メンバー紹介はベースのジェリー・ジェモットから始まり、
ドラムのバーナード・パーディ、ギターのコーネル・デュプリーと続いていく。
すぐに惹かれたのは、バーナード・パーディの素晴らしいドラミングだ。
滑らかで巧みなバチさばき。文句なしのグルーヴ感。無邪気な笑顔。
全てがパーフェクトだった。
 
次がテレキャスターを弾くコーネル・デュプリー。
ルックスは気難しくとっつきにくい感じだが、
フレーズが泥臭くブルージーでカッコいいので、
ポーカーフェイスもえくぼのように愛らしく思えてくる。
 
直立不動でこんなグルーヴィーに演奏できるなんて本当に凄い。
派手な弾き方はしないが、一つ一つのフレーズに魂が込められている。
歯をチラッと見せて弾いた瞬間にディープなソウルが顔を覗かせた。
外見はクールでもデュプリーのソウルは煮えたぎっているのだ。
 
カッティングに戻った時の何食わぬ表情もデュプリーらしくていい。
しなやかで繊細な右手のストロークを見たら、ピックだけでなく
中指や薬指まで使ってパラパラと弦をつまびいている。
<注>
粋なリズムを刻む華麗な指使いに終始目が離せなかった。
 
1971年3月5日〜7日、サンフランシスコのフィルモア・ウェストで
行われたアレサ・フランクリンのコンサートでは
キング・カーティスとキングピンズがバック・バンドとなって彼女をサポートした。
この時に収録された音源はその年の8月に
ライヴ盤「Live at Fillmore West/ライヴ・アット・フィルモア・ウェスト」として
リリースされヒットを記録。
ところがその1週間後、
キング・カーティスは麻薬中毒者によって
刺殺されてしまう。
享年37歳。あまりにも無念で悲劇的な最期だった。
 
キング・カーティスは懐が広く、人材を発掘する才能に秀でており、
多くのミュージシャンから慕われていた。
1966年、仕事にあぶれて家賃の支払いもままならなかったジミ・ヘンドリックスを
自らのバンドにヘルパーとして雇ったのも彼である。
そこでジミはコーネル・デュプリーと出会い、
数か月間キング・カーティスの公演に同行してレコーディングも行った。
 
ジミ・ヘンドリックスの伝記「鏡ばりの部屋/チャールズ・R・クロス著」によると
ジミは卓越したギタリストであるデュプリーと演奏することで
インタープレイ(相手の音に反応しながら互いを高めあい
音楽的な会話をすること)を学び、
演奏に感情と魂を込めることで
デュプリーのいう「脂ぎった」弾き方を学んだらしい。
二人とも1942年生まれで、
デュプリーはジミヘンのことをすごく気に入っていたと
彼の妻はインタビューで答えている。
 
1966年5月5日、ニューヨークにあるプレリュード・クラブにおいて
ソウル・シンガー、パーシー・スレッジによる
『When A Man Loves A Woman/ 男が女を愛する時』の
レコード・リリース記念パーティが開催された。
その時”PoPsie/ポプシー”によって撮影された写真には
コーネル・デュプリーとジミ・ヘンドリックスが並んで写っている。
キング・カーティスもこのパーティで演奏し、
キングピンズがパーシー・スレッジやウィルソン・ピケットらの
バックも務めたようだ。
 
このステージを観た観客の中でいったいどれだけの人が
ジミ・ヘンドリックスというギタリストに注目しただろうか?
ジミはこれまでバック・ミュージシャンとして何とか生計を立ててきたが、
仲間の誰よりも貧乏だった。
しかし天職はミュージシャンだと決め込んでいたので、
ギターに対する情熱は冷めることなく、
いつかチャンスを掴んでスターになりたいと夢みていたのである。
幸運にも、7月にアニマルズのベーシスト、
チャス・チャンドラーに見い出されて9月に渡英。
瞬く間に世界を席巻するスーパー・ギタリストになったが、
27歳で謎の死を遂げた。
 
一方コーネル・デュプリーはジミヘンとは正反対で、
自分の仕事はセッション・プレイヤーだと認識し、
影のような存在であってもそれを良しとした。
デュプリーはソウルからR&B、ファンク、ジャズ、ブルース、ポップに至るまで
幅広いジャンルをこなすことができたので、
アトランティック・レコードは彼に様々なレコーディング・セッションを用意し、
「やりたいようにやって」と言うだけで演奏には一切口を挟まなかったらしい。
デュプリーはサイドマンとしての役割を十分心得ており、
熟練した職人のように与えられた仕事を匠の技で
キッチリ仕上げる名ギタリストだった。
 

<注>
最初「ピックは持っておらず」と書いてしまいましたが、
     ピックは持っていました。訂正致します。
     
     スタッフ時代の「ライヴ・アット・モントルー1976」の映像を観ていたら
     アンコールが終わった後、持っていないと思っていたはずの
     ピックを弦に差し込んだので目が点になりました・・・。
     それですぐにギタリストの方に確認したところ、
     デュプリーはピック弾きが基本で、それに中指と薬指の指弾きが
     加わると教えていただきました。
     ピックが小さい上に手の動きがマジシャンみたいに華麗だったから
     鈍感な私はピックの存在に気付きませんでした。
     リサーチ不足で申し訳ありません。     

 
<2012.4.27> 
 







Cornell Dupree/コーネル・デュプリー








































King Curtis/キング・カーティス























左からキング・カーティス、パーシー・スレッジ、
コーネル・デュプリー、ジミ・ヘンドリックス





左からキング・カーティス、コーネル・デュプリー、ジミ・ヘンドリックス





中央はウィルソン・ピケット
左右にコーネル・デュプリーとジミ・ヘンドリックス