Donny Hathaway ダニー・ハサウェイ@〜声に魅せられて/
                『ア・ソング・フォー・ユー』



今までどれだけ多くのアーティストの歌に酔いしれてきたのだろうか。
皆それぞれに豊かな才能と個性があり、その時々で私の心を満たしてくれた。
しかし、ダニー・ハサウェイほど甘く神秘的な声の持ち主を
他に見つけることができない。
 
私がこの天才ソウル・シンガーを知ったのは、
リー・リトナー(ギタリスト/作曲家/プロデューサー)の
「OVERTIME/オーヴァータイム」(2005年リリース)
というライヴDVDを観ていた時である。
これはリトナーのアルバム「ジェントル・ソーツ」(1977)に参加した
ミュージシャンがリユニオンした時のアンソロジーライヴで、
「ジェントル・ソーツ」とはリトナーが
当時のゲスト・ミュージシャンに対してし付けた名前だ。
 
収録されている曲は2004年、ロスのライヴ・スタジオで数回に分けて
録音されたもので、どの曲も洗練されていて質が高い。
ゲストとして招かれたアーティストは総勢16人で、
ジェントル・ソーツのメンバーだった
ハーヴィー・メイソン(ドラム)やアンソニー・ジャクソン(ベース)、
デイヴ・グルーシン(キーボード)、パトリース・ラシェッン(キーボード)の他に
タイトなスラッピン・ベースを弾くメルヴィン・デイヴィス、
そして新進気鋭のドラマー、オスカー・シートンも参加している。
 
リトナーがライヴで『Morning Glory/モーニング・グローリー』
を演奏する前にある一人の女性を紹介した。
「ここで若き美女を紹介します。
才能豊かな音楽一家の出身、ケニヤ・ハサウェイです」と。
R&Bやソウル・ミュージックを聴いている人ならこの時点で
「彼女の父親はダニー・ハサウェイ」と気づくはずである。
しかし無知な私は、「美しい彼女はどこの誰?音楽一家って何?」
とジャクソン5のような家族を想像しながら曲を聴いていた。
 
このDVDはライヴ映像とそこに出演しているアーティストが
仲間や音楽について語るインタービュー映像で構成されているため、
曲の後でリトナーがケニヤについて話す場面が出てきた。
そこで初めて私はダニーの名前を知ったのである。
 
「ケニヤ・ハサウェイの噂は聞いていて、
有名なダニーの娘でレイラの妹だと知っていた。
彼女に"2週間後のライヴの為に人を探している。
デモを送って欲しい"と頼んだんだ。
彼女は送ってくれてその後一緒にジャムをやってから
"君を雇う"と彼女に伝えたんだ」
 
字幕にはこのように書かれていたが、
実際にはリトナーがダニーに言及した時
「とても、とても、とても有名なダニー・ハサウェイの娘で・・・・」と
3回も「Very/とても」を繰り返していたので、
そんなに有名な人をなぜ私は知らないのかと
非常に情けない気持ちになった。
ベーシストのメルヴィン・デイヴィスは
「ケニヤの声は父親ダニーの延長線上にあるね。
父親に似ているんだ。とても神秘的な声だよ」と語っていた。
 
ワクワクしながらネットでダニー・ハサウェイを調べてみると、
ダニーのアルバム「Live/ライヴ」(1972)に対して、
「最高傑作だ」「クオリティが高い」「熱中して聴きこんでしまう」
「この一枚に全人類が感動する音の瞬間が詰まっている」など
ダニー・ハサウェイがいかに優れたアーティストで
いかにこのアルバムが素晴らしいか、
皆、口を揃えて絶賛していたので、即「Live」を購入した。
 
初めて彼の歌声を聴いた時、
それはマーヴィン・ゲイの『What's Going On/ホワッツ・ゴーイング・オン』
をカヴァーしたものだったが、
ダニーの「マーザ マーザ・・・」という出だしの歌詞を聴いた途端、
私は彼の声と音楽の虜になってしまった。
才能にあふれたミュージシャンは凄い。
たったワン・フレーズで私のハートを射止めたのだから。
 
「Live」に感激した私は、彼のアルバムを計5枚、
デュエット・アルバムを2枚購入した。
それらは、ファースト・アルバム
「Everything is Everything/新しきソウルの光と道」(1970)、
セカンド・アルバム「Donny Hathaway/ダニー・ハサウェイ」(1971)、
サード・アルバム「Live/ライヴ」(1972)、
デュエット・アルバム「Roberta Flack & Donny Harhaway
/ロバータ・フラック&ダニー・ハサウェイ」(1972)
ラスト・アルバム「Extension Of A Man/愛と自由を求めて」(1973)、
彼の死後発売された「Roberta Flack Featuring Donny Hathaway
/ロバータ・フラック・フューチャリング・ダニー・ハサウェイ」(1980)、
そして「These Songs For You, Live!
/ソングス・フォー・ユー ライヴ!」(2004)である。
 
ダニーの魅力について、私の拙い言葉で語り尽くす事は不可能だ。
でも彼の歌に大きく心を揺り動かされたからこそ、
賞賛の言葉がとめどもなくあふれ、
この感動を誰かと共有したいという気持ちがフツフツと湧いてくる。
もしも誰かが「ダニーの『Live』は最高だね」とか
「ダニー・ハサウェイの音楽は大好きだ」と言ったとしたら、
その言葉は私をこの上もなく上機嫌にさせる。
その人と私はその部分で感性が一緒なんだと嬉しくなるのである。
ダニー・ハサウェイ・・・彼は私にとってそんな存在だ。
 
声のトーンが柔らかく繊細なため、歳を重ねても
きっとシャイな青年が話しているように聞こえただろう。
彼の声は低音域に移行するにつれ、ハスキーボイスが震えて
ビブラートがかかり、ちょっとワイルドで刺激的な声になる。
中音域から高音域になると女性をうっとりさせる「甘さ」が出てくるのだが、
彼はフェロモンを放出するようなセクシャルな歌い方はしない。
 
彼の声にはいい意味での「青さ」があり、
物事を深く感じ取る内省的な響きも持ち合わせている。
純粋でナイーヴな彼の精神と音楽に対する真摯な姿勢が
そこに投影されているからだと思う。
天がダニーに与えた驚くべき声。
それを自在に操れる音楽的才能が彼にあって、本当によかった。
 
ダニー・ハサウェイの代表曲に、
1971年にダニーがカヴァーしてセカンド・アルバムに収録された。
 
この曲は、疎遠になっている恋人からの、
弁解しつつも許しを乞う苦悶のラヴ・ソングだが、
ゴスペル仕込みの力強いダニーの歌唱が曲にフィットして
せつせつと愛を訴えるので、
一度聴いたらメロディが耳に残って離れなくなる。
曲のイントロと間奏部分で、上から下に下降していくピアノのリフも
独特な雰囲気を醸し出し、ダニーならではのアレンジだ。
彼が弾くピアノは歌と同じくらい繊細で、叙情性がある。
 
アルバム「ソングス・フォー・ユー ライヴ!」に収録されている
あの伝説となった「ライヴ」で演奏されたもの。
聞こえてくるのはダニーの歌と彼の奏でるピアノの音色だけ。
ダニーの滑らかで伸びのある声や息遣いがすぐそばで感じられ、
魂がこもっているから歌に迫力がある。
スタジオで録音された『ア・ソング・フォー・ユー』よりもエモーショナルで、
言葉を噛みしめるように歌っている。
特に間奏の後に発する 「I love you.....」が最高にソウルフルで、
観衆の女性陣がすぐに反応して嬌声を上げていた。
ファルセットで歌う最後のフレーズ「to you.....」も柔らかくて素敵だ。

バラード(ポピュラー音楽において、スローなラヴ・ソングを指す)は
そのシンガーの実力を示す一つのものさしになるが、
ダニーは修正のきかない「ライヴ」という場で
このバラードを完全に自分のものにして、見事に歌いあげた。
それも即興で歌をアレンジしながら。
やはり彼はただものじゃない。
ダニーの声をもっともっと近くで聴きたくて
スピーカーの中へ入っていきたい気持ちになった。
この名曲はダニーの他にカーペンターズやレイ・チャールズ、
テンプテーションズ、アレサ・フランクリン、
ホイットニー・ヒューストンなど数多くのアーティストにカヴァーされている。
 
 
『A Song For You/ア・ソング・フォー・ユー』
 
                        Written by Leon Russell (1970)
 
 
I've been so many places in my life and time
I've sung a lot of songs I have made some bad rhymes
I've acted out my love in stages
With ten thousand people watching
But we're alone now and I'm singing this song to you
 
僕は今までいろんな場所を回って
たくさんの歌を歌ってきた まずい詩を作ったこともあったけど
僕はステージで自分なりに愛を表現した
数え切れない観衆の前で
でも今は君と僕しかいない だから君にこの歌を歌っている
 
I know your images of me is what I hope to be
I've treated you unkindly but darlin' can't you see
There's no one more important to me
Baby can't you see through me
Cause we're alone now and I'm singing this song to you 
 
君が心に描くような僕でありたい
僕は君に冷たくしてきた でもダーリンわからないかな
君以上に大切な存在はないんだよ
ベイビー 僕の本心がわからないかな 
今は君と僕だけだから 君にこの歌を歌っている
 
You taught me precious secrets of a true love witholding nothing
You came out in front and I was hiding
Now I'm so much better and if my words don't come together 
Listen to the melody cause my love is in there hiding
 
君は本当の愛がいかに神秘か教えてくれた
君は愛情を表に出し 僕は隠していた
今 僕は前よりもずっと気分が晴れている 
もしも僕の言葉が足りなければ 
メロディに耳を傾けてほしい
僕の愛がそこに隠されているから
 
I love you in a place where there's no space or time
I love you for in my life you're a friend of mine
And when my life is over
Remember when we were together
We were alone and I was singing this song to you
 
君を愛している どこにいてもどんな時も
君を愛している 君は生涯の友達だから
そして僕の人生が終わる時 思い出してほしい
僕達が一緒にいた時のことを
僕と君だけがいて 僕が君にこの歌を歌っていたことを
 
I love you in a place where there's no space or time
I love you for in my life you're a friend of mine
And when my life is over
Remember when we were together
We were alone and I was singing this song to you
We were alone and I was singing this song to you
We were alone and I was singing this song to you
Singing this song to you
 
僕は君を愛している どこにいてもどんな時も
僕は君を愛している 君は生涯の友達だから
そして僕の人生が終わる時 思い出してほしい
僕と君だけがいて 僕が君にこの歌を歌っていたことを
僕と君だけがいて 僕が君にこの歌を歌っていたことを
僕と君だけがいて 僕が君にこの歌を歌っていたことを
君にこの歌を歌っていたことを
 
 
対訳・Kaori
 
注1:「You taught me precious secrets of a true love witholding nothing」
というように、ダニーは「a true love/本当の愛」と歌っているが、
オリジナルは「of the truth/真実」である。
 
注2:ダニーは「I'm singing this song to you」というように
「for you」を「to you」に換えて歌っているので「to you」で表記した。
オリジナルは「for you」だが、レオン・ラッセル自身も
その時の気分で「to you」に換えて歌っている。
 
 
<2010・5・20>



























































































Donny Hathaway/ダニー・ハサウェイ