マーヴィン・ゲイA〜with ダイアナ・ロス


マーヴィン・ゲイはデュエットの達人で、
相手の女性が持っている個性に上手く自分をフィットさせる術を知っている。
多分デュエットにおける男女の役割というものを認識しているからだろう。
マーヴィンが最初にデュエットした女性は
当時モータウンの人気歌手だったメリー・ウェルズで、
続くキム・ウェストン、タミ−・テレルはマーヴィンと歌った事で脚光を浴び、
高い評価を得ることになった。
そして最後のデュエット・パートナーは、
モータウンの社長ベリー・ゴーディーから寵愛を受けたダイアナ・ロス
レコード販売能力が落ちたダイアナをもう一度復活させたいと願う
ゴーディーの要求をマーヴィンが聞き入れ、
ダイアナとのデュエットが実現することとなる。

ダイアナ・ロスとのデュエットで見せるマーヴィンの歌い方は
タミ−・テレルの時よりも積極的でより扇情的になっていた。
二人の女性とのデュエットを比較した場合、
タミ−とのデュエットで表現されていた愛の形態は
どちらかといえばプラトニックなものだったと感じる。
それはタミ−の歌声が若さや活気、向上心にあふれていたからだ。
マーヴィンはタミ−に主導権を持たせ、彼女の雰囲気に合わせながら
ヴォーカルを入れていった。

「2 ALL TIME GREAT CLASSIC ALBUMS」は
最初の12曲がタミ−とのデュオ、
13曲目から22曲目まではダイアナとのデュオで構成されている。
13曲目のタイトルは『You Are Everything / ユー・アー・エヴリシング 』で
イントロ部分から神秘的な大人の恋のムードが漂い、
60年代のモータウン・サウンドとは明らかに違う印象を受けた。
録音技術が上がったという事もあるかもしれないが、
ドラム(特にスネア)の音から60年代特有の軽く躍動的な響きが消え、
ある意味洗練された音に変化していたのである。
このコンピレーション・アルバムに収録されているダイアナとのデュエット曲は
1973年10月にリリースされたアルバム
「ダイアナ&マーヴィン」から抜粋されたものだ。

『ユー・アー・エヴリシング』は、美しく透明感のあるファルセットで
一世を風靡したグループ、スタイリスティックスが71年に大ヒットさせた曲。
ロッド・ステュワートもこの曲をカヴァーしている。
ダイアナ・ロスの声は甘く繊細で、ゆったりと囁くような歌い方。
「Oh, oh, darling〜」以降、マーヴィンは徐々にテンションを高めていき、
2回目の「You are everything〜」というサビの終わりから、
即興的に「ハニー」「ウーマン」「ダーリン」「ベイビー」などと
強く呼びかけながらダイアナをリードしていき、
高まる愛を抑えられない自分をあからさまに表現していた。
それがダイアナのはかなくも成熟した声と絡み合うため、
めくるめく愛欲の世界がはっきりとイメージできてしまうほどだ。

15曲目の『Don't Knock My Love / ドント・ノック・マイ・ラヴ』は
一度聴いたら忘れないベース・ラインとファンキーなリズムが特徴で、
イントロを聴いた瞬間、どこかで聴いたことがあるような懐かしさに駆られた。
小学生の頃、この曲のさわりの部分を土曜日の夜8時からやっていた
ある番組で繰り返し聴いていたことを思い出す。
ダンサブルなイントロに、ユニークな振りを付けて踊っていたのは
志村けん氏だった。
彼はR&Bに精通していて、その道の一大コレクターとして有名らしい。
『ドント・ノック・マイ・ラヴ』のオリジネイタ−は最近亡くなった
ウィルソン・ピケットで、71年にヒットしてミリオン・セラーとなる。

次の『You're A Special Part Of  Me / 噂の二人』は
メロディの良さもさることながらアレンジが完璧だと思った。
バック・コーラスやストリングスの入れ方が美しく、
サウンドにも厚みがありドラマティックな仕上がりになっている。
マーヴィンの男らしいシャウトも素敵だ。

17曲目の『Pledging My Love / プレッジング・マイ・ラヴ』を聴いた時、
学生時代のライヴで、バンド仲間だった先輩のUさんがこの曲を
声を振り絞りながら切々と声い上げていた様子がふと思い起こされた。
これはサン・レコードでも歌を吹きこんだことのある、メンフィス出身の
ジョニ−・エースが1954年にレコーディングし、翌年大ヒットした曲。
しかし彼は54年のクリスマス、ロシアン・ルーレットによって命を落とし、
25歳という若さで亡くなってしまう。
以後多くのアーティストがカヴァーしたというR&Bの古典的名曲である。
エルヴィスは1976年10月、この曲をアルバム「Moody Blue」のために
メンフィスにあるグレースランドのジャングル・ルームで録音した。

19曲目の『Stop ! Look, Listen (To Your Heart) /ストップ・ルック・リスン』も
スタイリスティックスが71年に歌ったもので、
間奏のギターのメロディー・ラインが70年代っぽくて
郷愁をそそられた。

ダイアナ・ロスはマーヴィンとアルバムを作っていた頃、
二人目の子供を妊娠していて精神的にも不安定だった。
マーヴィンはダイアナとの最初のレコーディングで
スタジオ内に酒や煙草、ドラッグなどを持ち込んだため、
それがダイアナの機嫌を損ね、その後一部の曲は別々に
録音することになったらしい。

マーヴィンはゴーディーの息がかかったダイアナが
モータウンの中で特別待遇を受けていた事に長らく不満を抱いていた。
ダイアナもマーヴィンもアーティストとしては一流であり、
大スターとしてのプライドをお互いに持っていたので
プロデューサーはアルバム作りに細心の注意を払ったようだ。
マーヴィンは後のインタビューで、
あの時もっとダイアナを理解してあげるべきだったし、
本当の意味で素晴らしいデュオが出来たとは言いがたいと語っている。
ビジネスを度外視して、二人が心を通わせ寄り添うように歌った時、
最高のデュエットは生まれるのかもしれない。

ダイアナとのアルバムを制作していたちょうどその頃、
マーヴィンは将来の妻となる、ある女性と出会い、
妻子ある身でありながら、17歳年下の天使のように純粋でかわいらしい
16歳の女性に心底夢中になっていた。
翌年の9月、その女性はマーヴィンの子供を出産する。
常日頃、マーヴィンが音楽と同じくらい情熱を傾けていたのは「女性」だった。
今回私が聴いたデュエット・アルバムは
彼のそうした情熱の一端を垣間見れるものであったが、
これらはその序章にすぎなかったことが後に判明する。

今日は奇しくもマーヴィン・ゲイの67回目の誕生日。
彼がこの世を去って22年になるが、
今だにブラック・ミュージック史上、最高のセックス・アピールを
持つ男と言われている。
私がその真の意味を理解し、彼の苦悩に満ちた人生を知るまでに
もうしばらく時間を要するのだった。



『YOU ARE EVERYTHING /  ユー・アー・エヴリシング』
                  song written by Thom Bell - L.inda Creed



Oh darling
I want to be everything to you

ダーリン・・・
僕のすべてを君に捧げたい

You are everything

あなたは私のすべてよ

Today I saw somebody
Who looked just like you
He walked like you do
I thought it was you

今日あなたに似た人を見かけたの
歩き方もそっくりだったし
私はあなただと思ったわ

As he turned the corner
I called out your name
I felt so ashamed
When it wasn't you
Wasn't you

その人が道を曲がろうとした時
思わずあなたの名前を叫んでしまった
あなたじゃないとわかった時
恥ずかしさでいっぱいになったの
あなたじゃなかったのよ・・・

You are everything
And everything is you
Oh, you are everything
And everything is you
'Cause you are everything
And everything is you

君は僕のすべて
僕の宝物は君だよ
あぁ あなたは私のすべて
一番大切なものはあなた
君はかけがえのない存在だから
僕にとって君がすべてなんだ

How can I forget
When each face that I see
Brings back memories
Of being with you

君のことを片時も忘れられない
誰かの顔を見ていても
君との記憶がよみがえってくる

Oh, oh, darling,
I just can't go on
Living life as I do
Comparing each girl with you
Knowing they just won't do
They're not you
No no baby,   

あぁ ダーリン
君なしでは生きていけない
君みたいな女性はどこにもいないよ
みんなちがう 君じゃないとだめなんだ

'Cause you are everything
And everything is you
Oh, you are everything
And everything is you
You are everything
And everything is you

君は僕のすべてだから
僕の宝物は君だよ
あぁ あなたは私のすべて
一番大切なものはあなた
あなたはかけがえのない存在
あなたは私にとってすべてなの

                                         訳:Kaori

<06・4・2>














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