オーティス・ラッシュ


私が初めて買ったブルースのレコードは、
オーティス・ラッシュのコブラ・セッションを集めたアルバムで、
タイトル曲は「I Can't Quit You Baby」(「君から離れられない」)。
シンプルながらジャケットのデザインが実にカッコよく、
若きラッシュがストラトのギターを縦に抱えて微笑んでいる写真に、
強いインパクトを受ける。
裏を見ると、コブラが「Cobra」という文字の
「C」に巻きついている絵が大きく描かれ、
「ブルースの世界は大蛇がとぐろを巻く密林の世界なのか?」と錯覚した。

ジャケットの帯には、「結局、このコブラ時代のラッシュをしのぐ傑作はない。
だれもが認め、彼の偉業をたたえる。
重厚な音に包まれ、ブルースの衝動という瞬間がヒシヒシと伝わってくる。
ラッシュは死すともこのアルバムは死せず」と書いてある。
緊迫感漂うその言葉に、「ただならぬ不滅のアルバムなんだ」と思った。

レコードに針を落とした時の記憶は今でも鮮明だ。
勢いのある苦悩に満ちたラッシュの声が、何かをせつせつと訴える。
人間が持つ根源的な欲求を、包み隠すことなく表現する歌い方。
今まで聴いたことがない、アジのある悲しげなギター・フレーズ。
この時初めて、「ブルース」という音楽と正面から向き合った。

特に好きな曲は、「Groaning The Blues」「Three Times A Fool」
「She's A Good 'Un」「It Takes Time」「Checking On My Baby」
「Double Trouble」「All Your Love」である。

「Double Trouble」のすすり泣くギター・フレーズが大好きだ。
ブルース・ペンタトニック・スケール(ブルース・ギターの音階)から
怒涛のごとく生み出される哀愁を帯びたフレーズ。
そこにラッシュの力強くも憂いのある声が重なり、
「これぞブルースの極み!」といった印象を受けた。

「All Your Love」は私自身、ライヴで何回ともなく演奏した思い出の曲である。
イントロから始まるリズムはブルースには珍しいラテン音楽を連想させるもの。
2コーラス歌を歌った後のギター・ソロで、ラッシュはハイ・コードを使ってギターのリフを弾く。
不安定に聴こえるこの音が素晴らしい。
何とも言えないもの悲しい雰囲気が醸し出しだされ、グッと胸に迫ってくる。
その後シャッフルのリズムになり、また元のリズムに戻る。

このアルバムには、
1956年から58年にかけてコブラ・レコードで録音されたイシュード・テイク、
16曲が収録されている。
当時ラッシュを高く評価していたウィリー・ディクソンがプロデュースし、
ラッシュのベスト盤となった。

2年程前に知り合いになった友人のMさんは、ブルースに関してもよくご存知だ。
出会った頃、Mさんがラッシュのライヴについて熱っぽく語ってくださったことが
昨日のことのように思い出される。
そのMさんが最近「オーティス・ライヴ体験記」を送ってくださった。
この体験記を読むと、Mさんがいかにラッシュを敬愛しているかがわかる。
Mさんがオーティス・ラッシュからもらったかけがえのない感動が、
私の心にも伝わってきた。
以下、Mさんの体験記を紹介させていただく。

「オーティス・ラッシュ来日のきっかけは、
94年に発表した17年ぶりのスタジオ録音盤
『エイント・イナフ・カミン・イン』の出来栄えが非常に良かったからでしょう。
もちろん、私もこのアルバムを即、手にしました。久しぶりのラッシュです。
本当に活き活きとしています。
声もギターも、それは素晴らしいものです。選曲もね。

今回のラインアップはサム・クックが2曲、
パーシー・メイフィールドも1曲カヴァーしています。
ややソウル寄りの印象も受けましたね。
選曲もさることながら、
ホーン・セクションがその印象を決定付けている気がします。
大好きな『ホームワーク』も収録され、
スロー・ブルースの『アズ・ザ・イヤーズ・ゴー・パッシング・バイ』が
何と言っても堪りませんね。
『ダブル・トラブル』を彷彿させるものでした。

そして、タイトル曲の『エイント・イナフ・カミン・イン』は
ウォーキング・テンポで乗りのよい曲。
このような素晴らしいアルバムを発表した直後のライヴです。
期待度は高まるばかりです。
その大きな期待に応えてくれた
オーティス・ラッシュの10年前のライヴ・レポートです。

エルヴィス同様、オーティス・ラッシュも後追いでした。
80年代半ば頃からブルースに目覚め(遅い!?)ましたが、
オーティスに行き着くまで、あまり時間がかからなかったように思います。

その頃、よく行ったレコード店『吉村レコード』(今は無い!!)、
ソウルとブルースの専門店で、
そのマスターからあれこれ教えを受けながら選んだ一枚が
『オーティス・ラッシュ:コブラ・セッション』だったと思います。

これが私とオーティスの出会いでした。

なんといってもオーティス・ラッシュは『コブラ』時代です。
何度聞いても、その感動は色褪せる事はありません。
特に『ダブル・トラブル』は格別です。

そのオーティス・ラッシュの初めてのライヴを体験したのは、
今から10年前の94年12月だったと思います。
場所は名古屋の『ボトムライン』。
会場は、立ち席ばかりで、
少し場違い(親父ファンは椅子席でゆっくり見たいからね)な印象を受けました。
しかし、うれしくもありました。若い聴衆ばかりだからです。
こんなに若いファンから支えられていることを知って正直驚きました。
私もこの若い聴衆に混じって盛り上がったことを昨日のように思い出します。

目の前(2〜3メートルくらいかな)でオーティスがギターを弾いているのです。
歌っているのです。唾が届きそうなのです。
次第に盛り上がり、往年の名曲も飛び出してきたあたりで最高潮に達したようです。
もちろん、場内は熱狂状態です。私は恍惚状態に突入。
思わず涙が出てきました。いろんな思いが頭の中を駆け巡ったのでしょう。
不運続きであったオーティスでした。
しかし、今、見事に返り咲いたオーティスなのです。その姿を直に見ているのです。
素直に喜んでいいという実感が湧いてきたのでしょう。
拭えども、拭えども溢れてくるのでした。

ありがとう、オーティス。

なお、当日、ステージで取り上げた曲は『サムバディ・ハヴ・マーシー』、
『エイント・ザット・グッド・ニュース』(サム・クック)、『ホームワーク』、
『シーズ・グッド・ウン』、『エイント・イナフ・カミン・イン』、
『オール・ユア・ラヴ』など、など
(はっきりと覚えていません。悪しからず)。

今年、5月にオーティスが再びやってくる。
また、元気な姿を見せてくれる。そんな期待が高まる今日、この頃です。」

オーティス・ラッシュ:OTIS RUSH
1935年4月29日、ミシシッピ州フィラデルフィア生まれ。
14歳の時に家族とシカゴへ移住。
マディ・ウォーターズ、ライトニン・ホプキンス、ジョン・リー・フッカー、
アルバート・キング、B.B.キング、Tボーン・ウォーカーなどの
ブルース・マン達の音楽に影響を受け、クラブに足繁く通うようになる。
56年デビュー。デビュー曲「I Can't Quit You Baby」が大ヒット。
この曲はレッド・ツェッぺリンもファースト・アルバムでカヴァーしている。
こうして有名なコブラ・セッションを残していくが、
その後移籍した幾つかのレコード・レーベルでは
なかなかレコードがリリースされないという不運に見舞われる。
しかし、クリーム時代のクラプトンはオーティス・ラッシュを手本にしたとも言われ、
一目置かれた存在であったことも確かだ。
クラプトンとの親交は今でも続いている。
94年にはクイックシルヴァー・レコードから
待望のアルバム「AIN'T ENOUGH COMIN' IN」をリリース。
現在も精力的に音楽活動を行っている。

<04・3・3>
※オーティス・ラッシュのファン・クラブ・ジャパンのサイトです
http://www.mmm.ne.jp/~slaylas/otis/