ロバート・ジョンスンを聴きながら

最近読んでいる本の中に、ロバート・ジョンスンの記事が
たくさんでてくるので、もう一度、聴いてみようという気持ちになった。
20歳の頃、友人が貸してくれたブルースのテープの中に
ロバート・ジョンスンが数曲入っていた。
あの頃はシカゴ・ブルース<エレキギターをかきならすブルース>ばかり
聴いていて、それ以前のデルタ・ブルースにはあまり興味がなかった。
したがって、ロバート・ジョンスンを初めて聴いた時もあまりその良さがわからず、
「クラプトンの最大のアイドルがこの人?」
と意外な思いにうたれてしまった。

早速図書館に行って検索したら、何とひとつだけあった!
レンタル・ショップにはエルヴィスをはじめ、ブルースのCDなどほとんど
置いていない。レコード店もそうだ。注文しないと手に入らない。
しかし、図書館には数多くの古いCDが置いてある。
エルヴィスのCDもそこで何回となく借りた。
(カウンターの人に顔を覚えられているかもしれない・・・)

ドキドキしながら借りたロバート・ジョンスンのCDのジャケット写真は
あの有名な写真で、
タイトルは「ROBERT JOHNSON    THE  COMPLETE  RECORDINGS」
2枚組のCDだった。
帰宅してまずライナー・ノーツを読んでみる。
1936・37年頃録音されたもので、このCDには現存しているマスターと
別テイクの全てが収録されているらしい。

曲目を見ると、和名で「心やさしい女のブルーズ」「ダスト・マイ・ブルーム」
「スウィート・ホーム・シカゴ」「台所に入っていきなよ」「蓄音機ブルーズ」
「死んだ小エビのブルーズ」「赤く熟したトマト」「小牛のブルーズ」
「四辻ブルーズ」などと書いてあった。
「四辻ブルーズ」はクラプトンがカヴァーしてヒットした「クロスロード」のことだ。

キング・オブ・デルタ・ブルースと言われたロバート・ジョンスン。
今から70年近く前の音源を聴くかと思うと、それだけでゾクゾクしてきた。
最初から聴いてみる・・・

「えっ?ギターは二人いるの?」
スライド・ギターと伴奏をするギターの二人がいるかと錯覚するような
ジョンスンのボトルネックのスライド・ギター。
力強い彼の歌声はあまりにも情感がこもっていて、ギターのエモーショナルな
音色と共に、その世界にグイグイ引き込まれてしまう。
これはまさに心の叫び! それが歌とギターの両方で激しく表現されている。
この録音はまだジョンスンが25歳くらいの頃である。
早熟な彼の素晴らしい感受性を垣間見ずにはいられない。
彼のブルース演奏に託したその熱情が、70年の時を超えて、
私の心に今、入ってきた。

あの時わからなかったものを、今、少なからず感じる・・・
もちろんまだその全てなど、未熟な私にはわからない。
・・・行ってみたい。ジョンスンのブルースを育んだミシシッピに。
そこで何を感じるのだろうか・・・
その音楽を生んだ風土は、きっと何かを教えてくれるにちがいないのだから。


★あのレコードを初めて見つけたときは、ロバート・ジョンスンなんて名前も
聞いたことがなかったと思う。たぶんまったく初耳だった。15歳か16歳の
ときだったんだけど、こんなパワフルなものがあるってことがショックだったね。
レコードをかけたら、実際に身体が震えた。ジョンスンは気に入るようにやろう
なんてことにことさら関心をもっているようには思えなかったからね。
アピールなんてことは気にしていないように思えた。それまでおれが聞いてきた
音楽は、いずれもレコード作りするように作られているように思えたんだ。
ロバート・ジョンスンのアルバムが印象的だったのは、聴衆を相手に演奏
しているようには聞こえなかったことだ。拍子とかハーモニーの規則なんかには
したがっていない。ただ自分のために演奏している。あまりにもものごとを
鋭く感じとっていて、ほとんど耐えがたい気持ちでいるという感じだった。
実際、長いことそのイメージがずっと続いたね。
 最初は痛ましすぎてたまらなかったけど、半年ほど経ったら
また聴き出して、そしたら他のものは一切聴かなくなってしまった。
25歳になるまでは、相手がロバート・ジョンスンのことを知らなかったら、
そいつとは口をきかない。ほとんどそんな感じだったね。ロバート・ジョンスンを
受け入れる支度をしているって感じだった。チャック・ベリーを聞いた時から
始まった宗教体験みたいなものだったんだ。それから段階踏むごとに先へ
深く進んでいって、受け入れる用意ができた。それでも十分じゃなかったん
だけどね。いぜんとしてパワーがありすぎて、しかも自分としてはがっくりして
しまうんだ。ジョンスンの音楽はとても自分にはやれないってことに気が
ついたものだから。マディ・ウォーターズの音楽がやれないのと同じでね。
あまりに奥が深くて、俺には扱いようがなかったんだ。<中略>
・・・ロバート・ジョンスンほど奥深くソウルフルなものにでくわしたことがない。
ジョンスンの音楽は、人間の声が発したものとしては、最高にパワフルな
叫びだね。初めて聞いたときは、混乱状態にいた自分に呼びかけてきた。
いつも自分が感じていたことを反映しているように思えたんだ。
・・・みんながジョンスンの音楽をあるがままに、その真実と美しさに
打たれるために味わうってことになったらすばらしいね。研究的なこと
なんかにならずにね。             <エリック・クラプトン>



ロバート・ジョンスン:ROBRET JOHNSON

1911年ミシシッピ州ヘイズルハースト生まれ。38年に同州グリーンウッド郊外の
スリー・フォークスで浮気相手の人妻の亭主に毒殺され、26年の短い生涯を閉じる。

トニック・コード(主和音)でなく、ドミナント7(属7和音)で終わるいわゆる転換コードを
ブルース・ギターの奏法に導入する。
彼のヒーローだったチャーリー・パットンのブギウギのウォーキング・ベース・ラインを
さらに洗練させ、シカゴ・ブルース、そして40年代・50年代のR&Bへの道を開いた。
やがて誕生するロックン・ロールにも決定的な影響を与える。

ROBERT JOHNSON
/ THE COMPLETE RECORDINGS
ERIC CLAPTON